May 31, 2017

違いを知る・違いを楽しむ/『クール・ジャパン!? 』



鴻上尚史『クール・ジャパン!? 外国人が見たニッポン(講談社現代新書、2015) 

日本で暮らす外国人を通して日本を見る、NHKの「cool Japan( 2006年から続いてます)。番組の司会をつとめる鴻上尚史さんが、番組から教えられたり、海外での仕事を通して知った「クール・ジャパン」にまつわる話をまとめた本です。

番組が始まった当初、話題にもなっていた、外国人が「日本でクール(かっこいいい・優れている・素敵だ)と思ったもの」ベスト20も紹介されていて、あれこれ面白いです。

ちなみに、1位は「洗浄器付き便座」です、はい。

その中で印象深かったひとつが、「富士登山」。
ところが、富士登山はクールでも、山を見て感動することはないとのこと。

また、2位の「お花見」。
満開の桜のもと、 美味しいものを食べる趣向を多くの外国人が支持する一方で、「日本人は秋になると、黄色くなった葉っぱを見にツアーを組んでやって来る。信じられないね」とカナダ人が話していたそう。
「花を見る」という感覚は理解できても、「葉をめでる」という感覚は、なかなか理解できないようです。
という話にも、ほほぅ。

一番笑ったのが、13位「大阪人の気質」。
「内気で、恥ずかしがり屋という日本人のイメージと大阪人のイメージは合わない」と言うのです。

それを確かめるべく、大阪で行われたロケの話。
外国人が、街を歩く大阪人に突然、葵の印籠を見せて「コノインロウガ メニ ハイラヌカ!?」と言うだけ。
そこで印籠を突きつけられた9割近い人が「ははぁ〜」と言いながら、ひれ伏すまねをしたそう。(一方、東京でロケしたときには、誰一人やってくれなかったそうです)

歩いている人の前で突然、バナナを取り出し、「ハイ モシモシ チョットマッテクダサイ」と言って、相手に「デンワデス」とバナナを差し出すと、これまたほとんどの大阪人は当然のようにバナナを受け取り、「はい、もしもし」と耳に当て、すぐに「バナナやないかい!」と突っ込んだそうです。
(とすれば、明石家さんまさんはクールの権化といえましょう)

本の始まりにあるように、「相手を知り、自分の国のことを具体的に知ることは、やがて、自分自身を知ることにつながるんじゃないかと思います。世界にはこんな見方があり、こんな考え方がある。多様であることを楽しむことは、きっと自分自身の人生も豊かにし、深くすることになるのです
興味深い話がそこココに。

鴻上さんの『「空気」と「世間(講談社現代新書、2009) も、日本人と、日本人でない人について、新しい視点がもてます。
こちらもかなりおすすめです。


May 21, 2017

プロになる道筋はいろいろ/瀬川晶司『泣き虫しょったんの奇跡』



瀬川晶司『泣き虫しょったんの奇跡 サラリーマンから将棋のプロへ(講談社文庫、2010)

プロ棋士になるには、奨励会日本将棋連盟プロ棋士養成機関)を経て、26歳までにデビューするのが王道コース。

奨励会時代、あと一歩のところで届かず、プロ棋士の夢をたたれた瀬川晶司さんは、その後、サラリーマン生活をしながらアマ名人戦やプロの公式戦で快進撃を続け、プロ棋士への道を切り拓いた人。日本将棋連盟がアマからプロへの挑戦を認めるきっかけを作った人です。

その瀬川さんが自ら綴った、生い立ちから35歳でプロデビューするまでの話。
瀬川さんの文章はすっと体の中に入ってきてとても読みやすく、将棋に興味のない方にもおすすめしたいです。

なかでも小学校時代の恩師、苅間澤大子(かりまさわ・ひろこ)先生のエピソードがとても素敵です。

始業式で初めて子どもたちと顔を合わせた先生が出した宿題は、「きょう家に帰ったら必ず、おうちのひとに〈今度の担任の先生は若くてきれいな人だ〉といいなさい」

子どもたちをあだ名で呼んだり、ときどき教室で一緒にお菓子を食べたり、図工の時間に、家から好きな絵を持ってこさせ、それを逆さまにして模写させたり。
(絵の苦手だった瀬川さんは逆さまの絵を模写することで、かえって集中して描くことができて、クラスの子どもたちからもその絵を「一番いい!」と言ってもらったそうです)

「人が悲しいときに寄り添ってあげる友だちよりも、その人が喜んでいるときに、よかったねと一緒に喜んであげられる友だちになってほしいな」
授業の合間に先生がしてくれたいろんな話も心に残ります。

プロ棋士になれるかどうかの対戦のさなか、先生から突然届いた葉書に書かれていた言葉は、思い出すたび、目の前がパッと明るくなります。

瀬川さんのプロ挑戦にまつわる、羽生善治さんのエピソードも忘れがたいです。
一流のひとはやっぱり違うと、さりげなくも感服しました。


May 8, 2017

落語入門したくなったら/『この落語家を聴け!』



広瀬和生『この落語家を聴け!(集英社文庫、2010)

落語入門したいと思っていた6年ほど前、お話作家の杉山亮さんがブログでおすすめされていて手にとった本。

熱気をおびた筆致……という言葉がぴったり。
落語デビューしたいと思いつつ、「とりあえず寄席へ」という気になかなかなれなかったのは、やっぱりちゃんと理由があったんだとわかりました。
「誰を」聴くかが問題……という広瀬さんの言葉に、ガッテンガッテン

そんな折り、ご近所のホールで「志の輔らくご」が開かれるという情報が。
『この落語家を聴け!』によると、最初に聴くなら、志の輔。
初めての人にも「落語って面白い!」と思わせる、わかりやすい魅力があると書いてありました。

チケットが発売されたのは東日本大震災の直後。
予定がどうなるかわからない状態でしたが、これも何かの縁。
と、チケットをとったところ、前から二列目の席。
そこで2011年4月5日、行ってまいりました。

この日のまくら(演目前の短いお話)も地震にまつわる話から始まりました。
また、海外での入国のエピソードでは、ふところからスッと取り出した手ぬぐいがちゃんとパスポートに見える。
さりげない所作にも落語の技術を感じました。

この日の演目は、成田近くのちいさな商店街を舞台にした新作落語。

舞台間近の席のおかげで志の輔さんの表情もよく見え、商店街の会長さんの人なつっこい表情が声と相まっていきいきしていて、舞台から目が離せませんでした。
落語は声を聴く芸能と思っていたけれど、目でも楽しめるものだったとは。

なぁんにもない舞台に身体ひとつ。
なのに、さびれた商店街の景色が見えてくるようで不思議でした。

高座に着物姿という佇まいからは、身体の奥行きというか、ふところの深さのようなものが感じられて、そのことにも感動しました。
テレビ中継では体感できなかったことでしょう。

演目が終わった拍手のあとも、志の輔さんは少し話をしてくださいました。
(ここでも地震にまつわることでした)

このときは、演目のときとはちょっと違ったトーン。
こじんまりしたホールとはいえ400人ほど相手の観客に向かって、まるで70㎝ほどのところにいる人に話しかけるように、距離を感じさせない、会場全体を包み込むような話し方でした。

「しゃべりのプロ」を感じました。
人に伝える仕事をしている人は学ぶときっといいと思います。
(とくに政治家のひとたち)
もちろん話す内容あってのことですけれど。

この本に出てくる落語家への評価をどう見るかは人さまざまかもしれません。
私には相性がよかったようで、この本片手にまたあの空間を楽しみに出かけたくなる……そんなガイドブックとなりました。