November 24, 2017

コミックエッセイでマラソン入門/『マラソン1年生』

  

たかぎなおこ『マラソン1年生』『マラソン2年生
(KADOKAWA/メディアファクトリー)

マラソンを始めるようになった、たかぎなおこさん。
日々の練習から、レースに参加したときの臨場感あふれるお話までがたっぷり綴られたコミックエッセイ。

ジョギング(練習)もいきなり始めるのではなく、早足で30分歩けるようになったら……を始める目安にするといいとか、靴やウェア選び(「ランスカ」かわいい)から大会エントリー&ホテルの手配の心得などなど、マラソンの世界を具体的にあれこれ知ることができて面白かったです。

ホノルルマラソンに参加したり、与論島のマラソンに参加した際には映画「めがね」のロケに使われていた宿に泊まったりと、旅ものとしての楽しさも味わえます。マラソン大会に参加するというくっきりした目的があるので、旅ものプラスの面白さを感じました。

なんと、あるマラソン大会では、『マラソン1年生』を読んでマラソンを始めたという読者の方から声をかけられるという素敵なお話も『マラソン2年生』で出てきます。

海外のマラソン大会に参加した『海外マラソンRunRun旅』、日本各地のマラソン大会に参加したグルメ情報もたっぷりの『まんぷくローカルマラソン旅』も、えっ、こんな大会があるの? というユニークなものがあったり、おすすめです。

マラソンはしませんが(散歩はします)、楽しくてすいすい走り抜けるように読み進みました。



November 17, 2017

やってみてわかること・始まること/『恋愛呼吸』



服部みれい・加藤俊朗『恋愛呼吸(中央公論新社、2013)

書店で手にとってページをめくってみると……のちに呼吸法を教わることになる加藤先生との出会いが綴られた、みれいさんの「まえがき」が面白く、とまらなくなりました。

「願いがかなう呼吸法」を実践した二週間後に(今回のみれいさんの願いはパートナーに出会うこと)、ほんとうに結婚が決まったみれいさん。
Amazonのレビューを読んでみると、この本を読んで呼吸法を始めたところ、結婚が決まった人や数週間でモテ始めたという人が続々。この勢いある感じが、これまた面白い。

本の中に登場している加藤先生がまた、魅力的な方なのです。
呼吸法を実践して結婚が決まったという、みれいさんが創刊した雑誌『マーマーマガジン』(現在の誌名は『まぁまぁマガジン』)の読者の方のお話も、フラットでとても素敵でした。

呼吸を試すもスルーするも、それぞれの自由。
でも、やってみようかな。
そう思えるタイミングがやってきたときは扉が開いたとき。
ちょっとした違いが実は大きな違いのような気がします。
そんなことを感じさせてくれる読者の方のお話でした。

わたしも2年ほど前から、自分に合った本に出会えて、ある呼吸法を続けています。
身体と気持ちがかなりラクになった実感が。
人生の第二ラウンドが始まった気分です。

そんなこともあって、本のタイトルの「呼吸」という言葉に目が止まって、書店で手にとったのでした。
私がやっている呼吸法と、この本に出てくる方法とは少し違うけれど、エッセンスは共通しています。

ちなみに、呼吸にまつわる話でよく「丹田」という言葉が出てきます。
その言葉が出てくるといつも、それってどこだぁ?と、ちょっと面倒な気分になっていたのですが、今回は「おへそから約9cm下」と書いてあるのを読んで、実際におへそにメジャーを当てて場所を確認してみました。

たしかにおなかの下の方を意識して呼吸すると、肝がすわるというか、より落ち着きます。
これも、定規を当てるという行為をするか見送るかは、些細なことのように見えて、実は小さくない!と思うのでした。


November 13, 2017

宝物感のある本/『イイダ傘店のデザイン』



飯田純久『イイダ傘店のデザイン(パイインターナショナル 、2014))

オリジナルのテキスタイルをデザインし、オーダーメイドの雨傘と日傘を制作している、イイダ傘店の飯田純久さん。

表紙に使われているのは、飯田さんがデザインした傘のテキスタイル。
上野リチのデザインした壁紙や、森野美沙子さんの押し花を思い起こしました。
久しぶりに宝物感のある本に出会った感じです。

さまざまなアイデアがほどこされた傘も、傘の制作にまつわるエッセイも、素敵です。

各地の工場や職人さんと手をたずさえ、一つ一つ手作りで傘を制作している飯田さん。だからと言って、一点物が大量生産されている既製品より上回っている、なんて言わない。ビニール傘も便利で大事と言ってくれる。

年に2度開かれているという展示会。
6月、青山のスパイラルマーケットで開かれていた「イイダ傘店 梅雨の傘店」へ行ってみました。

傘と、テキスタイルを生かした小物あれこれが展示されていました。
傘はすべてクルクルと閉じられた状態で並んでいました。
スペースの関係かもしれませんが、これは勝手に予想外。

実際に手にとって開いてみないと良さはわからない。
そう思って、気になった日傘と雨傘を1本ずつ鏡の前でオープン!

「ミモザ」(だったかな?)という名前の、黒地に黄色いミモザの花が刺繍された日傘は、裏から見ると、刺繍地が木漏れ日のように見えて、きれい。
木製の茶色い持ち手と柄も手にしっくりとなじんで、その感触は後になっても忘れがたい気持ちよさでした。

赤い実をあしらった「黒胡椒」という名前の雨傘をひらくと、まるで好きなものに囲まれた自分の部屋にいるような居心地。この感覚には静かに感動。

鏡を見ると、「ミモザ」も、「黒胡椒」も、物語を感じる雰囲気がありました。
イイダ傘店のデザイン』を手にしたときと同じような、宝物感を感じました。


November 10, 2017

自然をうつす、おすすめ写真集3冊

■ 生きものたちのごちそう

宮崎学さんの『死を食べる(偕成社、2002)は、自動的に(たとえば1時間おきに)シャッターを切ってくれるロボットカメラをセットして、動物の死体がどんなふうに変化していくかを定点観測した写真集です。



動物や自然の姿をうつした写真集はたくさんありますが、ほかには類を見ない本(仕事)だと思います。

たとえば死んでまもないキツネ。
入れ替わり立ち替わり、いろんな生きものがやってきます。
死んで温かい血がなくなるのを察知して、体からさっさと這い出してくるダニ。
早速、卵を産みつけにやってきたハエ。

2週間あまり経つと、その卵がかえって、内臓や毛皮を食いやぶってブワッとあふれるように出てくるウジ。
そのウジを目当てにハクビシンが。
キツネの肉を食べにイノシシが。
巣に敷きつめる暖かい毛布がわりに毛を集めにくる鳥もいます。

2カ月後、キツネはすっかり食べ尽くされて、骨と毛皮がわずかに残るだけに。
その骨も、小動物たちのカルシウム源になるのだそうです。

死んだ魚に集まってくるヤドカリの表紙を初めて見たとき、ギョッとして、おそるおそるページを開きました。(本文では、魚の目のまわりにびっしりヤドカリが群がっている写真が出てきます。不思議と柔らかい部分に集まってくるのだそうです)

最初は身構えていたけれど、写真を通して死骸が分解されていく(循環している)様子を見ていると、だんだんとホッとするような穏やかな気持ちになっているのに気がつきました。

生きものの死体は、生きものたちのごちそう。
私たちも毎日のように死んだ生きもの(肉や魚)をお店で買って、おいしく食べています。

最近とみに、死をいけないもののように語る風潮が強くなっている気がして、風通しの悪さを感じています。
一方で、生物学や、仏教(日本の現在の仏教ではなく、仏陀がひらいた初期の仏教)に携わっている人たちの、死は自然なことで特別なものととらえない記述にふれると、フラットな気持ちになります。

死を食べる』は子どもたちに向けて書かれた本ですが、動物の死体の経過を記録した宮崎さんのもうひとつの写真集『(平凡社、1994)は、その大人版とも呼びたくなる本です。

ぬれた落ち葉の上で横たわる、動物たちに食べ尽くされたカモシカや、雪山に埋もれて死んでいたシカを見ていると、ものすごく美しいとさえ感じます。




■ 臭いはサイン
でも、動物の死体を見て美しいと感じるなんて、写真には香りがないからだと気づきました。実際の死体の場所からはものすごい腐敗臭がしているはずです。それをキャッチしていろんな生きものがやってくるのですから。

そこで思い出したのが、動物のうんちに集まってくる虫たちを撮影した新開孝さんの『うんちレストラン(伊地知英信さん文、ポプラ社、2006)
この本も写真が美しくて見事です。


犬のうんちを嗅ぎつけやってきて、むしゃむしゃ食べてるセンチコガネ。
鼻をつまみたくなる犬のうんちがハンバーグやおはぎのようにおいしそうに見えてくるから面白いです。

大福をほおばりながら動物の死体やうんちの写真集を眺めている自分もどうかと思いますが、これも臭いがないからこそなせる技(?)ですね。

動物の死体にうんち。
見かけたら避けて通りたくなるものだったのがおいしそうに見えたり、美しく感じたり。ゆっくり受け入れられるようになっていくのは爽快です。(ただ、アスファルトの上にころがってる犬のうんちは、土の上で分解されていくのを見るのと違って、どうにも異物と感じてしまうのですが)

臭いのしない写真だからこそ、「臭いは自然の重要な要素(生きものにとって大事なサイン!)」だと、逆に気づけたのかもしれません。


*この文章は「死は自然の一部 ニオイについても考えた「死体」と「うんち」のおすすめ写真集」というタイトルで、たのしい授業』2017年3月号仮説社に掲載されました。


November 3, 2017

わかりやすい原発の本/『おしえて! もんじゅ君』



もんじゅ君著/大島堅一・左巻健男監修
おしえて! もんじゅ君 これだけは知っておこう 原発と放射能
(平凡社、2012)

かわいい表紙と「もんじゅ君」というネーミングが気になって、思わず本屋さんで手にとった本。東日本大震災の起きた翌年のことでした。

もんじゅ君というからには「原発って、やっぱり必要なんです」という立場の本かと思いきや、原発の基本的な知識と問題点をわかりやすく描いた本。
知っていることも、知らなかったことも書かれていました。

スポンサーの影響を大きく受けてしまうテレビの世界と比べると、出版の世界は目にする人の数はうんと少なくなるかもしれないけれど、こんなふうに発信できるんだと、その自由度を改めて感じたりもしました。
もんじゅ君と、本を形にしたスタッフの方たちにリスペクト、です。

大人にも子どもにもわかりやすく、自分の言葉でひとつの世界を知らせてくれる本でした。