東村アキコ『東村アキコ完全プロデュース 超速!! 漫画ポーズ集』(講談社、2017)
普段から、イラストの参考になりそうな資料(雑誌の写真など)はストックしています。実際に人にポーズをとってもらい、写真をとって描くこともあります。
以前、あるポーズ集を書店で見たとき、描く気がそそられなかった覚えがあって、ポーズ集は使ったことがありませんでした。その点、この本には、そういう違和感がありませんでした。モデルとポーズの選択からスタイリングまで、東村さんによるもの。
ちょうど仕事で参考になるポーズがあったので、取り入れて描いてみたところ……出来上がったラフを人に見せたら、「なんかいつもと違う。 動きがある!」と、ほめられました。早速、役に立ってしまいました。
頭身と骨格を決めて、肉付けしていくという、オーソドックスな漫画の描き方があるようなのですが(東村さんは「ロボット設計図」と呼んでいました)。
そのやり方で自分の作品を描いているアシスタントを見た東村さんは言います。ネーム(ラフ)では伸びやかだった線が、本番では固くなり、しかも時間がかかっている。
上手いけど時間がかかって固い絵より、下手でも速く描けてのびやかな絵の方がいい。ロボット設計図で描くより、写真を見て描いた方がいい。速く描いて、その分たくさんマンガ(ストーリー)を描いた方が若いうちは力がつくとすすめているのです。
設計図方式で描いてて楽しい人や、上手く描ける人、それが自分の絵に合っている人は、もちろんその方法でOKということも、ちゃんと言っています。
ところが、Amazonのレビューを見てみると、この巻頭漫画でアシスタントをバカにしていると感じた人が少なくないようで、びっくりしました。私はむしろ、アシスタントへの、絵を描くのが好きで漫画家になろうとスタートした人たちへの愛情を感じたのですが。
漫画やイラストでは、それらしく見えることが大切と思ってます(ごまかして描けという意味ではないです)。
正確さが要求される絵の場合は、もちろん正確さ優先で。ただ、正確さを追求することにとらわれて絵がいきいきしていなかったり、必要以上に時間がかかる方がいいと言い切れません。
普段は立ち入ることができない漫画家の仕事場にカメラを設置して、制作の秘密をさぐる「浦沢直樹の漫勉」。この番組で、東村さんの制作現場を見ましたが、ネームも仕上げも速かった。しかも、描くのが楽しそうだった!
東村さんの自伝コミック『かくかくしかじか』で、美大受験のため通った絵画教室で、スパルタ恩師のもと、毎日ひたすら手(と眼)を動かしつづけた話を読んでいたので、何本もの連載を並行している東村さんの筆の速さ、仕事ぶりに説得力を感じるのでした。
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