July 28, 2017

ものづくりマンガの名作/『ナッちゃん』



たなか じゅんナッちゃん(集英社、2000〜2007)

病気で亡くなった父親のあとを継いで、鉄工所をきりもりするナツコが主人公。

「困ったときはあそこへ行ったら何とかしてくれる」
その評判が評判を呼んで、毎回、機械の修理に開発にと、ややこしい依頼が。

大好きだったお父ちゃんの言葉、「出来るかどうかを考えるんやなく、どうやったら出来るかを考える」を座右の銘に、依頼に応えていくナッちゃん。

その工夫っぷりが素人にもわかりやすく描かれていて、毎回、うなります。
元気が出ます。
ものづくりマンガの名作です。

登場人物のノリのよい関西弁も小気味よいです。


July 19, 2017

クォリティは細部の集積/『「オトコらしくない」からうまくいく』



佐藤悦子・清野由美
「オトコらしくない」からうまくいく(日本経済新聞出版社、2010)

アートディレクター・佐藤可士和さんの妻であり、可士和さんが設立した会社SAMURAIのマネージャーでもある悦子さんに、清野さんがインタビューする形で繰り広げられる対談。

ひょんなことから読んだAmazonのレビュー、「働く女性、特に、女性デザイナーは読んで損はないと思います」この一言が気になって手にとったところ、その言葉通りでした。

この本の前に読んだことのあった悦子さんの前著『SAMURAI 佐藤可士和のつくり方(誠文堂新光社、2007)も、共感するところがたくさんでした。

読む前は、コンサバ系のきちんとした洋服にメイク、縦ロールの髪……私の身近な友人にはいないタイプだ〜。そう感じていた距離が、読んでふきとびました。
仕事に対する姿勢はもちろんのこと、率直さや謙虚さも感じて、悦子さんのことを好きになってしまいました。

この本も、気がつけばまた付箋の林。
なかでもよかった一つが「クォリティは細部の集積」という表現。
「美は細部に宿る」という言葉より具体的に響きました。

これって、ものづくりの仕事だけでなく、サービス業(つまりはすべての業種)にもあてはまることですよね。

以前訪れた修善寺の旅館・あさばで過ごした空間と時間が気持ちよかったのは、そういうことだったんだな、と。
さまざまな分野にも通ずる視点に改めて感じいりました。


July 9, 2017

装丁には正解がある(by 鈴木成一さん)



鈴木成一『装丁を語る。(イースト・プレス、2010)

装丁家の鈴木成一さんがこれまで手がけた本の中から約120冊を選びだし、どんな意図で装丁したかを語ったもの。

具体的なテクニックの話もですが、装丁に対する考え方がシンプルな言葉で響いてきて、とてもよかったです。

「編集者と一緒に作っていくものなので彼ら彼女らの反応が重要なんですね。読者の反応って見えにくいですから、まず目の前の編集者を喜ばせる。そうすれば、その先の読者にもつながっていく」という言葉も響きました。

以前、出版の仕事をしていたときは「作って+売る」 過程で、お客さまの顔がダイレクトに見える環境にいました。
それは今でも財産のように感じています。

デザインやイラストの仕事は、直接にはお客さまの顔が見えづらく感じるときもあるかもしれないけれど、そうだそうだ。
依頼してくださった方の向こう側に、見たり使ったりしてくださっている人がいる。
と、再確認するような、ふんどし(装着してませんけどね)を締め直すような気持ちになりました。

どんな紙や印刷の加工を使用したかもそれぞれの本ごとに記載されていて、データブックとしても参考になる嬉しい一冊。


June 30, 2017

事実は推理小説より興味深し/『おかしな二人 』



井上夢人『おかしな二人 岡嶋二人盛衰記(講談社文庫、1996)

作家志望でもなかった二人の男性が「江戸川乱歩賞に応募してみよう(印税も魅力的だし)」と、岡嶋二人 (おかじまふたり)というペンネームで推理小説を書き始め、7年目にして受賞。プロの作家としてデビューし、28冊の本を出し、コンビを解消するまでの18年を、二人のうちのひとり、井上夢人さんが綴ったエッセイ。

宣伝文には「ファン必携の一冊」と書かれていましたが、推理小説どころか小説さえほとんど読まない私ですが、勢いとまらず読み進みました。

ひとりがアイデアを出し、ひとりが文章を書く……という役割分担がいつしか定着。どんなふうに作品が作られていったかという話は推理小説を読むように面白かったです。

その役割分担が二人の小説を生み、やがてコンビを解消する導火線にもなっていくのだけれど。
いちばん最後の「おわりに」の文章は、読むたび泣きそうになります。

実際にプロになってからが大変。
それまでのストックが役に立ったという話もうなずきながら読みました。


June 20, 2017

「せんせい」を描いた名作自伝コミック/『かくかくしかじか』



東村アキコ『かくかくしかじか全5巻、集英社、2012〜2015)

漫画家・東村アキコさんの自伝コミック。

藤子不二雄Aさんの『まんが道』しかり、漫画家になるまで(と、なってから)の話というのは、臨場感あふれていて面白いです。

自分のことをきれいに(格好よく)見せようとしていない、包み隠さなさ感が痛快です。女性には珍しいタイプかもしれません。
とはいえ、自分が大好き!な性分も心得ていて、そんな客観性がエンターテイメントにつながっているとも感じました。

昔、群ようこさんのエッセイを読んだとき、やはり自分を飾らないたんたんとした語り口が不思議と心に残り、こんなふうに書けたら(強いだろうなぁ)と憧れたことを思い出しました。

このマンガでは、美大受験のとき通った、宮崎にある絵画教室の、日高健三というスパルタ先生と過ごした時間のことがたくさん描かれています。

この日高先生が強烈な魅力を持った人物。
美大を受験する方や、絵を描いている方には直球でおすすめしたいですが、そうでない方も、ぜひみなさん、読んで読んで。

私は読むたび声を出して笑っています。
そして泣けます。

単行本の最終巻には、日高先生が表紙に。
読み続けてきた者にとってはものすごく美しく感じる表紙です。
発売されたとき、書店で「日高せんせい!」と声に出して、手にとりました。

June 10, 2017

言葉に意識を/『カネを積まれても使いたくない日本語』



内舘牧子『カネを積まれても使いたくない日本語(朝日新書、 2013)

ここ数年、テレビを見ていて、政治家のヘンに丁寧な言葉遣いが気になっていました。(例えば「お示しする」などなど)

また、10数年くらい前から、あるスポーツ選手がインタビューに応じているときの「〜とは思います」という言い方がかなり気になっていました。

「〜と思います」でいいのに、なぜそこに「は」をつける? と。
この言い方、とみにそこココで耳にするようになりました。

この本では、気にかかっていたことや言われて気づいた言葉の使い方が、あれもこれもとスパッと出てきます。
政治家の丁寧な言い回しや「〜とは思います」についても書かれていて、合点がいきました。
妙な気遣いや、責任を逃れるような曖昧な言い回しが増えているご時世が見えてきて、おもしろいです。

「言葉は生きものであり、時代とともに変化するもの」(「前書き」より) で、どんな言葉に違和感や不快感を持つか、人の感覚はさまざま。
そう心得たうえで、人前で話したり、文章を書く人(ネット上のものやメールも含めて)におすすめしたい、読んで損はない一冊だと思います。


May 31, 2017

違いを知る・違いを楽しむ/『クール・ジャパン!? 』



鴻上尚史『クール・ジャパン!? 外国人が見たニッポン(講談社現代新書、2015) 

日本で暮らす外国人を通して日本を見る、NHKの「cool Japan( 2006年から続いてます)。番組の司会をつとめる鴻上尚史さんが、番組から教えられたり、海外での仕事を通して知った「クール・ジャパン」にまつわる話をまとめた本です。

番組が始まった当初、話題にもなっていた、外国人が「日本でクール(かっこいいい・優れている・素敵だ)と思ったもの」ベスト20も紹介されていて、あれこれ面白いです。

ちなみに、1位は「洗浄器付き便座」です、はい。

その中で印象深かったひとつが、「富士登山」。
ところが、富士登山はクールでも、山を見て感動することはないとのこと。

また、2位の「お花見」。
満開の桜のもと、 美味しいものを食べる趣向を多くの外国人が支持する一方で、「日本人は秋になると、黄色くなった葉っぱを見にツアーを組んでやって来る。信じられないね」とカナダ人が話していたそう。
「花を見る」という感覚は理解できても、「葉をめでる」という感覚は、なかなか理解できないようです。
という話にも、ほほぅ。

一番笑ったのが、13位「大阪人の気質」。
「内気で、恥ずかしがり屋という日本人のイメージと大阪人のイメージは合わない」と言うのです。

それを確かめるべく、大阪で行われたロケの話。
外国人が、街を歩く大阪人に突然、葵の印籠を見せて「コノインロウガ メニ ハイラヌカ!?」と言うだけ。
そこで印籠を突きつけられた9割近い人が「ははぁ〜」と言いながら、ひれ伏すまねをしたそう。(一方、東京でロケしたときには、誰一人やってくれなかったそうです)

歩いている人の前で突然、バナナを取り出し、「ハイ モシモシ チョットマッテクダサイ」と言って、相手に「デンワデス」とバナナを差し出すと、これまたほとんどの大阪人は当然のようにバナナを受け取り、「はい、もしもし」と耳に当て、すぐに「バナナやないかい!」と突っ込んだそうです。
(とすれば、明石家さんまさんはクールの権化といえましょう)

本の始まりにあるように、「相手を知り、自分の国のことを具体的に知ることは、やがて、自分自身を知ることにつながるんじゃないかと思います。世界にはこんな見方があり、こんな考え方がある。多様であることを楽しむことは、きっと自分自身の人生も豊かにし、深くすることになるのです
興味深い話がそこココに。

鴻上さんの『「空気」と「世間(講談社現代新書、2009) も、日本人と、日本人でない人について、新しい視点がもてます。
こちらもかなりおすすめです。